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後遺障害による逸失利益

 

逸失利益とは、交通事故に遭わなければ被害者が得ていたと考えられる経済的利益を失ったことによる損害です。

 

交通事故の場合、一般的なのは、後遺障害が残存した場合の「労働能力の喪失」を逸失利益として損害算定します。

 

後遺障害の等級認定に基づく逸失利益のため、被害者の症状が治癒した場合、後遺障害が残存しなかった場合は損害は生じません。

 

後遺障害逸失利益の算定方法

 

後遺障害による逸失利益の算定式は次のとおりです。

 

基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

 

【算定事例】

 

基礎収入額:給与所得者で年収400万円  後遺障害:11級  年齢:症状固定時47歳

 

400万円(事故前年の収入額)×20%(後遺障害11級)× 12.4622(労働能力喪失期間20年間(67歳-47歳)

=後遺障害による逸失利益996万9760円

 

基礎収入額とは

 

逸失利益を算定するための基礎収入額の算出は、休業損害と同じように、給与所得者や事業所得者、主婦(家事従事者)、無職者など

被害者の事故当時の収入や就業状況によって算出します。

 

 

・給与所得者

原則として、事故前年度の収入を基礎として算定します。

 

収入には基本給だけでなく、各種手当(住宅手当、超過勤務手当(残業代)、皆勤手当など)を含み、

また、所得税や住民税などを控除した、いわゆる手取り額ではなく、総支給額が基礎となります。

 

基本的には、源泉徴収票があれば立証は容易ですが、源泉徴収票の取得ができない場合は、

住民税の納税証明書、課税証明書などの提出が必要になります。

 

 

 

・事業所得者

原則として、事故前年度の申告所得額を基礎として算定します。

 

ただし、申告所得が賃金センサスによる平均賃金よりも相当に低額だった場合、被害者の年齢や職業、事故前の職歴や稼働状況などを総合的に考慮して、

生涯を通じて賃金センサスの平均賃金程度の収入を得ることができると認められれば、賃金センサスを採用して算定することもあります。

 

確定申告書の控えや住民税課税証明書、納税証明書などを提出して立証します。

 

 

 

・家事従事者

原則として、賃金センサスの女子平均賃金を基礎として算定します。

 

平成25年の平均賃金は353万9300円、平成24年の平均賃金は354万7200円です。

 

ただし、年齢や家族構成、身体状況や家事労働の内容などを考慮し、賃金センサスに基づいて一部、減額となることもあります。

例えば、専業主婦の高齢者で、夫と2人暮し、食事の一部で配達サービスなどを受けている場合などは減額になる可能性があります。

 

なお、兼業主婦、給与所得などの収入を得ている主婦の場合、家事労働分の加算は認められていません。

 

そのため、被害者が兼業主婦の場合は、就労による収入と家事従事者としての平均賃金を比較します。

 

 

 

・失業者

交通事故に遭った時点で収入がないからといって、将来にわたって収入が得られないという考え方は不合理であるため、

原則的には、交通事故に遭った時点で失業していても、後遺障害による逸失利益は肯定される傾向にあります。

 

もちろん、労働能力や労働意欲があることが前提ですが、事故前の収入を得ていた時の収入額や賃金センサスから判断します。

 

 

 

・幼児、生徒、学生

幼児、生徒、学生は原則として、賃金センサスに基づいて算出します。

 

賃金センサスには、年齢や性別、学歴によって平均賃金が区別されていますが、

基本的には、被害者の性別に関わらず、男女を含む全年齢平均で算出することが近年の一般的傾向です。

 

なお、大学生や専門学校生などの場合は、学歴別の平均賃金を採用することもあります。

 

労働能力喪失率とは

 

労働能力喪失率とは、労働能力の低下がどの程度なのかを表します。労働能力喪失は自動車損害賠償保障法施行令別表第2を参考とします。

 

基本的には、この表のとおり、後遺障害として認定された等級によって算定しますが、

後遺障害の内容によっては、被害者の職業や年齢、性別、後遺障害の部位、程度、事故前と事故後の実際の労働状況を考慮して

個別の喪失率が認定されることもあります。

 

後遺障害等級 労働能力喪失率
 第1級  100%
 第2級  100%
 第3級  100%
 第4級  92%
 第5級  79%
 第6級  67%
 第7級  56%
 第8級  45%
 第9級  35%
 第10級  27%
 第11級  20%
 第12級  14%

 第13級

 9%
 第14級  5%

 

労働能力喪失期間とは

 

労働能力喪失期間の始まり、始期は、症状固定日とされています。

 

幼児、生徒、学生などの未就労者の場合には、原則18歳となります。

 

労働能力喪失期間の終わり、周期は、原則満67歳とされています。

 

例外として、症状固定時から67歳までの年数が、平均余命の2分の1よりも短くなる場合は、

労働能力喪失期間を平均余命の2分の1とすることがあります。

 

 

例えば、症状固定日時点で65歳の女性の場合、労働能力喪失期間を原則どおり満67歳とすると、労働能力喪失期間は2年になります。

 

この時、平均余命と比較してみると、平成25年簡易生命表では、65歳女性の平均余命は、23.97年です。

 

平均余命23.97年の2分の1は約12年ですから、例外適用となり、労働能力喪失期間は12年として算定します。

 

 

労働能力喪失期間も喪失率と同じように、生涯の内容や部位、年齢職業、今後の治療の必要性など後遺障害の具体的状況によって判断されます。

 

なお、裁判例では、頚椎捻挫や腰椎捻挫などのむち打ち損傷によって後遺障害が残存した事案では、

労働能力喪失期間は、12級の場合は5年から10年、14級の場合は3年から5年で判断されていることが多い現状です。

 

ライプニッツ係数とは

 

ライプニッツ係数は中間利息控除率といって、長期間にわたって発生する損害を、一時金として受け取るため、

将来の利息(中間利息)を差引いて計算するためのものです。

 

 

非常にややこしいのですが、例えば、労働能力喪失期間を10年として100万円の賠償を受け取ったとします。

 

逸失利益としての補償は、1年10万円×10年分という意味ですが、1年ごとに毎年支払がされるのではなく、一括で支払われます。

 

補償としては、1年間で10万円ですが、一括で100万円を受領したのですから、その100万円を原資として運用することが可能になります。

運用というと大げさですが、一般的な預金や貯金をするだけでも利息が付いて増えることになります。

 

そのため、10年後の結果として、補償された100万円よりも手にした金額は増えていることになるのです。

 

中間利息控除率は、その利息分をあらかじめ控除することで、本来補償される総額との調整をするために用いられているのです。

 

 

代表的な中間利息控除の計算方法には、ライプニッツ方式とホフマン方式というものがありますが、

裁判所や保険会社、弁護士も含め、現在はライプニッツ方式によって算定することが一般的になっています。

 

ライプニッツ係数の一例(一部抜粋)

 

労働能力喪失期間 ライプニッツ係数

3年間

 2.7232
4年間 3.5460
5年間 4.3295
6年間 5.0757
7年間 5.7864
8年間 6.4632
9年間 7.1078
10年間 7.7217
15年間 10.3797
20年間 12.4622
25年間 14.0939
30年間 15.3725

35年間

16.3742
40年間 17.1591

 

 

 

 

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