高次脳機能障害とは
意識障害を伴う頭部外傷では、高次脳機能障害のように重度の後遺障害が残ることが予想されます。
頭部外傷の場合、傷病名だけでも、脳挫傷、急性硬膜外血腫、びまん性軸索損傷、急性硬膜下血腫、びまん性脳損傷、外傷性くも膜下出血など様々です。
また多くは、脳の損傷も伴います。脳は人間の様々な機能を支配する非常に重要な場所ですので、
実際に表出する傷病や症状も人それぞれ様々で複雑です。
このページでは、頭部や脳の機能、高次脳機能障害について説明しています。
高次脳機能障害による自賠責保険での後遺障害等級認定についてはこちらのページからご覧ください。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害による具体的な症状は人それぞれ全く違います。 当てはまる症状の数も人それぞれ違います。
高次脳機能障害の場合、骨折などのように、見た目に表出しない症状が起こることも特徴ですので、
少しでも心当たりのある項目がないかどうか確認してみてください。
1.記憶障害
① 交通事故に遭う前のことを思い出せない
② 現在の年月や時刻がわからない
③ 何かを置いた場所がわからなくなってしまう
④ 1日の予定を覚えておくことができない
⑤ 作業の手順を覚えることができない
2.注意障害
① 気が散りやすく集中して何かをすることができない
② 長時間1つのことをしている、じっとしていることができない
③ 同時に2つのことを行えず、1つのことしかできない、とても時間がかかる
3.遂行機能障害
① 行動の順番、計画をたてるこができない
② 物事の優先順位を付けられない
③ 行動するには他人の指示を必要とする
4.行動障害
① 食欲をコントロールすることができず常に食べている
② 金銭のコントロールができず無駄遣いや浪費をしてしまう
③ 公共の場で大きな声をだしたり、場違いな発言をしてしまう
④ 家族にスキンシップを求めたり、年齢不相応な甘えかたをする
5.人格障害
① 一人でいることを好み塞ぎ込む
② 突然に怒りだす、暴力を振るう、感情のコントロールができない
③ 事故に遭う前と趣味嗜好がまったく変わってしまう
6.その他の障害
① 食事の際に、飲み物や食べ物が喉につまったりするような違和感が生じる
② 暖かい場所でも寒い、いつも暑いなど周囲の人と感じる温度差が違うことがある
③ 言葉を発生するときにうまく発生できずどもってしまう
④ はさみや筆記用具などを上手に使うことができない
⑤ 文字を書く字が非常に薄い、所定の枠からはみだしてしまう、読めない字を書く
脳の機能と高次脳機能障害
このような様々な症状が表出するのはそれだけ脳が私たち人間の日常の行動の全てを司っているためです。
脳にはそれぞれの部位により機能が異なり、交通事故の頭部外傷、脳損傷によって損傷した場所により症状も異なります。
部位 |
役割 |
前頭葉 |
行動の開始、問題解決、判断、行動の抑制、計画、自己の客観化、情緒、注意・組織化、言語表出 |
側頭葉 |
記憶、聴覚、嗅覚、言語理解 |
頭頂葉 |
触覚、空間認知、視覚認知 |
後頭葉 |
視覚 |
脳幹 |
呼吸、心拍、意識・覚醒、睡眠 |
小脳 |
バランス、運動調節、姿勢 |
頭部外傷と傷病
交通事故によって頭部を強打し、救急搬送されると最初の診断で、高次脳機能障害です。というような診断になることはありません。
高次脳機能障害は、日常の行動に表れるため、意識が回復しなければ高次脳機能障害の判断はできません。
そのため、まずは頭部外傷があることが診断されます。それが以下のような診断名です。
逆に言えば、以下の傷病が診断された場合、高次脳機能障害になることが多いと考えてください。
傷病名と頭部の解剖学上の部位を確認しておきましょう。
頭部外傷による傷病名
脳挫傷 急性硬膜外血腫 びまん性軸索損傷 急性硬膜下血腫
びまん性脳損傷 外傷性くも膜下出血 外傷性脳室出血 低酸素脳症
頭蓋骨
頭蓋骨は、脳を保護する脳頭蓋と、顔面を形成する顔面頭蓋から構成されています。脳頭蓋は、さらに頭蓋冠と頭蓋底に分かれます。
頭部は、脳が頭蓋骨という固い容器に収納されている構造となっています。
頭蓋骨よりも外側を頭蓋外と言い、頭部軟部組織がおおっています。頭蓋骨よりも内側を頭蓋内と言い、脳が髄膜に包まれた状態で存在します。
脳に対して影響を及ぼす頭蓋内の損傷の有無が、頭部外傷では問題となります。
髄膜
頭蓋骨の下には、脳を包んでいる髄膜という膜があります。
髄膜は外側から順に、硬膜、クモ膜、軟膜の3層構造となっています。
① 硬膜
硬膜は、頭蓋骨の内面に張りついているラバー状の丈夫でシッカリした膜です。
硬膜は、大脳鎌と呼ばれる左右の大脳の間にくびれ込んでいます。また、大脳と小脳の間には小脳テントを形成しています。
② クモ膜
クモ膜は、硬膜と軟膜の間にある透明な膜、薄く弱い膜で、ピンセットでつまむと破れるほどです。
軟膜との間には、クモ膜下腔という繊維性のネットがあり、脳脊髄液で満たされています。
このスペースに出血が起こるとクモ膜下出血になります。
③ 軟膜
軟膜は、脳の表面そのもので、脳実質に張りついている透明な膜です。
脳挫傷 |
脳挫傷とは、頭部への直接的な強い打撃による脳の打撲状態のことで、交通事故などの外傷によって 頭蓋骨の骨折部位から入り込んだ異物や骨の断片によって、脳組織が挫滅、砕けてしまう損傷のことです。 衝撃を受けた部位が損傷を受けるのはもちろんですが、脳が衝撃によって突然に加減速するため、 その部位と反対側が頭蓋内面に打ちつけられ、そちらも損傷を受けることがあり、これを対側損傷と言います。 脳挫傷は脳の出血や腫れを引き起こすこともあるため、脳挫傷と併せて、びまん性軸索損傷や外傷性くも膜下出血 などの傷病が診断されることがあります。 |
びまん性軸策損傷 びまん性脳損傷 |
びまん性軸索損傷では、脳の神経細胞の一部である軸索が広範囲に損傷した状態で、一般的に、脳表面に点状出血が 広範囲に広がります。 交通事故による強い衝撃で、頭部に回転性の外力が加わると、脳の神経細胞の線維、つまり軸索が広範囲に断裂し その機能を失うと考えられています。 びまん性軸索損傷では、6時間以上持続する意識消失を起こし、手術は役に立たないため、通常、びまん性軸索損傷と 診断されると、相当に深刻な後遺障害が予想されます。 |
急性硬膜外血腫 |
頭蓋骨と、頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜の間に出血がたまって血腫になったもので、多くは、硬膜の表面に 浮き出たように走っている硬膜動脈が、頭蓋骨骨折に伴って傷つき、出血し、硬膜と頭蓋骨の間にたまって硬膜外 血腫になります。 脳のと接する硬膜「下」ではなく、脳を包む硬膜の「外」の血腫ですから、傷病名が急性硬膜外血腫のみで、 大きな意識障害をともなわないものは、一般的には高次脳機能障害を残すことはないとされています。 |
急性硬膜下血腫 |
頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜と、脳の間に出血がたまって血腫となったものです。 脳挫傷、脳組織の挫滅によって、そこからの出血が脳の表面、脳表と硬膜の間に流れ込み、硬膜下腫となります。 脳挫傷の衝撃を受けた部位の対角線上に、急性硬膜下血腫が認められる事例もあります。 血腫による圧迫と脳挫傷のため、頭蓋内圧が亢進すると、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められます。 血腫による圧迫が脳ヘルニア状態にまで進行すると、場合によっては死に至ることもあります。 |
くも膜下出血 |
脳を包んでいる髄膜の3層のうち、硬膜のさらに内側にある薄い、くも膜と脳の間の出血をくも膜下出血と言います。 交通事故のような外傷を原因とするときは、外傷性くも膜下出血と診断されています。多くの診断では、脳挫傷と 併せて認められています。 症状は、出血の範囲、出血による脳の圧迫によって異なりますが、激しい頭痛や嘔吐が見られます。 脳表部の部分的なくも膜下出血であれば回復しますが、広汎な出血や脳底部の出血となると深刻な後遺障害も 予想されます。 |
脳室内出血 |
脳の中心部にある、脳室と呼ばれる空洞に出血したものです。脳室は脳脊髄液で満たされており、その脳脊髄液は いくつかの脳室を順に流れていきます。 脳室内出血によって脳脊髄液の通り道が詰まると、上流にある脳室が急速に拡大して、周囲の脳を圧迫します。 これを急性水頭症と言い、徐々に流れが滞り脳室が大きくなった場合は、正常圧水頭症と診断されます。 脳挫傷、脳組織の挫滅によって脳室の壁が損傷を受け、そこからの出血が脳室内にたまって脳室内出血に至ります。 症状は、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められ、早急に手術が必要になります。 |
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